なあおい、聞いてるんだろう。
俺はもうすぐ死ぬぜ。
まあお前らからしたら息を吹き返すってところかな。
でも真実としちゃこれでワンサイクルの寿命なわけだから、実質息を吹き返すも何もないわけだけれど。
何にせよ俺はまもなく本当の終わりを迎えるわけなのさ。


死後の世界って考えたことあるだろう。
大霊界だの極楽浄土だの、生前は多かれ少なかれ誰でも死んだ後の世界を思い描くものさ。

体を抜け出た魂は死後の世界へやってくる。
悲しみや苦しみのないそこで、濁世を生きた魂は慰められながら安らかに…
とか思ってた、俺も。

違うんだよ。
大霊界だの極楽浄土だのお前、
ないんだよ。そんなのは。

死んだらどうなるかって?
教えてやるよ。
どうにもならないのさ。
「俺たち」は、天に昇ることも地に還ることも消えることも、ない。
肉体をなくしたってだけで、あとは変わらず存在し続けるんだ。

しかも、気付いたら僕死んでました、なんて状態にすらならない。
魂が肉体から抜け出る瞬間も、意識は途切れたりしないではっきり続いてるのさ。
だから自分が「死ぬ」瞬間を知っている。
俺もそうだった。
あ、死んだ、と思った瞬間、意識はそのまま続いていて、今まで自分だった「肉体」がぱったり落ちていくのを確実に知覚してた。
そして俺はまだ「居た」。
不思議なんだけど、目下にノビたその見慣れた肉体を見ても、それを自分だとはもう思わなかった。
だって俺は確実に「こっち」だったから。

要するに俺たちが「死」だと思ってる現象は、実は死でもなんでもなかったんだ。
ただ肉体と魂が乖離するだけのターニングポイントだったんだよ。
死んだと思った瞬間に、人は第二の人生が始まるんだ。


じゃあ全員不老不死じゃないか
わーいやったね万歳?
馬鹿野郎。
俺はもうすぐ死ぬっていったろうが。

さっき言ったように、人は肉体を離れた後も魂だけで生きる。
ただし年はとらない。
どんどん若返ってくんだ。

肉体を離れた状態からスタートして、魂が今度はさかのぼっていく。
しかもそれにつれて、覚えていたはずの記憶を端から忘れていくんだ。
新しいものから消えていく。
最初に自分の死因を忘れ、死ぬ間際に出会った人を忘れ、名を忘れ、形を忘れ。
どんどん白紙の状態に戻って行く感覚、って言えば分かるだろうか。

どこまで行くかって?
さかのぼりきったところ、つまり昔々、本来生まれた瞬間の状態までさ。
このあたりになるともう言葉も忘れている。
んで最期に自我をなくし、意識をなくす。
それが俺たちの本当の死だ。
ここまでが本当の人生、本当の寿命さ。


どうだい、驚いただろう。
そして不思議に思っただろう。
俺はなんでこんなこと全部忘れないで覚えてるのか。
テキトーなもんだよな。
肉体の死にざまが無様だったからおまけしてやるんだってさ。
そりゃかたき討ちもあたわず頭ぶち抜かれて死ねばちょっとは同情ももらえるってもんか。
30年も前の話さ。

そういうわけで「享年」31歳。
まともに生きてりゃ明日で62か。
俺がひどい「死にかた」したせいで迷惑かけた奴らも、今じゃこっちにいるんだかそっちにいるんだか。
いずれ俺のことはもう分かんないだろうな。

なあおい。
俺はもうすぐ死ぬぜ。
本当の本当に死んで、あとはもう分からない。
別の何かに生まれるのか、永遠に消え去るのか。
いずれ俺ではなくなるんだ。
どうなるんだろうな。
楽しみだし、怖いぜ。
なあ。
お前はどうだい。
こんなこと知って、怖いかい。
そんなもんかって気楽になったかい。
生きたくなくなったかい。
生きたくなったかい。


ああ。
本当にもうすぐだ。
じゃあな。
体は大事にしろよ。ほんとにな。












(臨死、)









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