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横一列に座った勇者たち
その頭に手桶が被せられる
一番左端に座った私にも
やはり手桶が被せられた



白い着物の女が
勇者たちの勇敢な命を
1つずつしとやかに奪ってゆく

ひとりずつに





ビリーバイ





そう
出発の挨拶をしながら



誰も逃げようとはしなかった
自ら命を差し出した
勇者たちばかりなのだから
みな静かに
視界を遮られ終わりを待った



私もまた冷静なふりをして
着物の擦れるわずかな音
1つぶんずつのビリーバイの声
そして己の鼓動ばかりを
聴いていた





ビリーバイ

ビリーバイ





やけに静かに終末は近づいてくる



勇者たちの背後には
死を恐れて
たった1隻の延命の大船に
我先にと詰め寄せた人々が
すきまなく立ち尽くしていた



勇者たちと寸分違わぬ距離にいて
それでも彼らとは
死を伴わぬ点にて異なっていた



勝ち取った延命権をむさぼって
喜ぶはずが
息を呑んで勇者を見ている



これではまるでノアのハコブネである
いやタイタニック号の悲劇だろうか
いずれにせよ
この大勢の延命と題して
私はもうすぐ終末を迎える



鼓動は速い
汗が浮く
白い着物の女の気配はもう
すぐそこまで擦り寄ってきている





ビリーバイ


しゅる
しゅるり





ビリーバイ


するっ





半数余が既に逝ってしまった
ということだろうか



右横で何かが倒れる物音
誰も騒がない
誰も起こさない



終わる瞬間は苦しいだろうか





ビリーバイ


しゅる





どこをやられるのだろうか
何でやられるのだろうか
綺麗だろうか
無様だろうか
ああ
ああ





ビリーバイ

ビリーバイ
ビリーバイ

ビリーバイ





格好をつけたフリをして
日々哲学をしたフリをして
悟りをひらいたフリをして
いざとなったら
こんなにちっぽけな様である



みなひどく冷静だが
先に逝った右に並ぶ先人らも
その瞬間は
恐らく完全に平穏では
なかったであろう



どこかで
恐怖して
悲嘆して
震えて
泣いて






死ぬことが
これほど絶対だとは
死ぬ瞬間にならなければ
分からないのだね






女の吐息が聞こえるほどになった
手桶を頭に被って
大船のへりに並んで座って
はたから見れば穏やかな画の
その一部になって
左端に座った私も
まもなく
終末を迎えようとしている










(ビリーバイ)







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