Diva
who receives
thousands loves
could never gain
only one
love
.








彼女はミリオンセラー続出の人気歌手。
今や世界中にファンを抱える、世紀の大物歌姫だった。
その日も専属スタッフに囲まれて、新しいシングルのプロモーションビデオの撮影をしていた。



「ファンに向けてひとことインタビューでも撮ってみるのはどうですか」

撮影の合間、不意にそう提案したのはディレクター。
みんなが頷いた。
簡単なインタビューだったので、ディレクター自らカメラを回し、適当な下準備ののち彼女へのミニインタビューが決行された。



「じゃあいいかな。あっちを背にしてそこに座って」
インタビューが始まった。
さ、どうですか、撮影の調子は。
日差しが強いですけど、日焼け対策は万全ですか。
まるで日常会話のようなインタビュー。
質問と返答はなごやかに1つずつ、いくつもいくつも消費された。



「それじゃ本題に入りましょう。
今回の新曲、愛する人への届かない片想いを切に綴ったバラードだときいていますが、そこに込めた想いをぜひきかせてください」

はい、と彼女は少々真面目な様子になって口を開いた。

「これは片想いをした私の実体験を元に書いた歌で、」

とうとうと彼女は答えた。
イヤホンを耳にしたディレクターとカメラのレンズが、それをじっと見ている。
彼女の声だけがマイクに吸われてゆく。
迷うこともなく、彼女はすらすらと続けた。




インタビューは滞りなく終了した。

「ok、カンペキです!
インタビューはこれで終わりね。
あとは遠目から短いVTRを撮るから、そのままそこに座ってて。
目線はこの辺で」

ディレクターはそう言うと、数歩下がった場所にカメラをセットし直した。
安定しないカメラの足元を調節しながら、いたずらっぽく彼女に問いかける。

「ちなみにそのお相手は誰とかって、聞けたりします?」

彼女は一瞬驚いたような表情をして、ふわりと笑った。
それからはにかんだような顔をして首を横に振った。
ディレクターは視線だけ一瞬上げてそれを見て、そうですか、と笑う。

黙って座る彼女の耳を掠める、ぬるく乾いた風鳴り。
数m前方でディレクターが機材をいじる無機的な音。



(お相手は誰とかって、聞けたりします?)



愚問というものがあるとするなら、ディレクターが投げかけたその質問が正しくそれだな、と彼女は思った。



風が大きく彼女の髪を揺らし、ゆらりと上がった彼女の細い右腕は髪をその風に流す。
ディレクターがカメラを覗いた。
揺らぐまいと3本足で突っ立つカメラのレンズを通して、その向こうの視線はこの瞬間、いつも彼女だけに向けられる。












この一瞬にでも叫んでしまいたかった。















本当は貴方に向けて書いた曲なのだと。














喉の奥でその言葉は熱を持つ。
彼女は悟られないように涼やかに笑ってみせる。
それが彼女の美しい顔に、より深い色を付ける。

いつも君はカメラ映りがいいな。
ディレクターが笑った。










(Diva never gains it.)






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